コトバのコトバ

ボクキキⅡツバサ編1:あこがれのセンパイ。

バス停で、その人を見かけた。

まぶしい人だな。
長い手と足。浅く日焼けした肌と、白い歯のコントラスト。
花なら、大きなひまわり。

なんて思ってたら、目があっちゃった。
ジロジロ見すぎだよヒトミ、まずいまずい。
あわててその場を離れようとしたら、

「ちょっと、待って」
「うわあ、ごめんなさいごめんなさい」
「謝らなくてもいいけど、キミ、ヒトミくんでしょ?」

えっ?
「そうですけど・・・」
「やっぱりそうか。忘れた?意外とつめたいなあ」

美人。元気。たぶん年上。
大急ぎで、記憶の倉庫の中のデータをひっぱり出して、照合作業開始。

あっ!「もしかして・・・」
その人の大きな目は、微笑んでいる。

「ツ、、、バ、、サ、さん?」
「やっと思い出せたね」
やっぱりそうだ。ツバサさんだ。

「でも時間かかりすぎ。再テスト」

ツバサさんは、高校のサッカー部のマネージャー。2コ上。
1年生のときの、3年生。憧れの人。

なんてことだろう、偶然出会えるなんて。感激。

元気で笑顔でやさしくて、うれしいときはいっしょに喜んで、落ちこんだときははげましてくれた。
もちろん笑顔はすてきだったけど、時おり見せる大人びた横顔。
ぼくはそいつに、胸をキュンとさせたり、アレをピクンとさせたりしてたんだ。

あれから5年か。
「じゃ罰として、お茶つきあってもらおうかな」
ぜんぜん罰じゃないですっ。そんなことなら、毎日罰されたいですっ。

近くのオープンカフェ。
なつかしい思い出話は、ぼくを15の夏につれもどしてくれるみたいだ。

ぼくがPKをはずしたせいで試合に負けて、ぼくは学校にも行けず家にひきこもって、そしたらツバサさんが朝迎えに来てくれて、
「ヒトミくーん、出て来たらキスしてあげるよー」
って、もう、近所中に聞こえる大声で叫ぶんだもん。

「だってそうでもしないと、出て来なかったでしょ?」
「で、ほんとに、ほほにチュッってしてくれたんですよね。でも緊張しすぎて、感触もわからなかったです」

ツバサさん、たのしそうに笑ってくれる。美少女から、美人になったツバサさん。
でも笑顔は、あのころのままだ。

ツバサさんがうっかりブラをつけないで、練習のグラウンドに現れた日。
ぼくらはよそ見のしすぎで、1日に5人もケガをした。
「うっかりじゃないのよ、わ、ざ、と」
やっぱりぼく、からかわれているのかな?

「そんなことしてるから、私、いろいろウワサたてられたことも、あったもんね」
笑っていうけど、たのしい話じゃないはずだ。
マツダ先輩、クラタ先輩、スズキ先輩、コンドウ先輩、タカギ先輩、同級生のウエダ・・・。
(いろんな人と、シテるんだって、あの人)マユミっていうクラスメイトが、ぼくに告げ口した。

「きっと嫉妬ですよね、ツバサさんがモテてたから」
、ってぼくが言ったらツバサさん、
「シテたよ」
、ってナンですか、どういうことですか、まさかアレですか?

「冗談、、、でしょ?」
「もちろん、」
ツバサさん、今日のベストスマイルで、
「冗談じゃないよ」

つぎの言葉が出るまでの数秒間が、1時間に感じた。

「なぜですか?ツバサさん、ぼく、ツバサさんをあんなに尊敬してたのに!」
ショックで、声が震えている。

「ヒトミくんは、あいかわらずね」
と、ぼくの目をじっと見る。
「尊敬と、セックスするしないは、関係ないでしょう?」
そりゃそうだけど・・・。

「ヒトミくんって、昔からそういうところがあるの。リアルさがずれてるっていうか、なにか探すときでも、隣の引き出しをあけて、一生懸命探しているみたいな」
わかるような・・・よくわからないような。

「それは結局、このお話の先に進めばわかるんだけど、セックスから逃げているんだと思う」
逃げている?セックスから?お話が先に?どういうこと?

「みんながわたしに夢中だったってこと、覚えてる?」
「はい、だってみんなの憧れでしたから」
「そこが違うの、憧れじゃないの」
「ぼくはずっと、憧れてました」
「でもね、ヒトミくん以外はみんな、わたしとシタかったの、憧れは憧れで終わらないのがフツーなの」
・・・ぼくはフツーじゃないってことですか?

「でも、ぼくだってぼくだって、ツバサさんのタオル盗んだことがありますっ。つまりシタかったんですっ」
意地になって自白してみたら、
わたしの下着盗まなかったの、サッカー部で、ヒトミくんだけよ」
とあきれたように、ツバサさんが言った。

「どうやってみんなとシタかというと・・・」
って、わーーーそんなこと聞きたくない、聞きたくない、聞きたい。

「練習終わって、みんなが帰ったあとにね、つきあってたからね、マツダくんと」
やっぱキャプテンさすがだな、って感心してるばあいじゃなくて

「・・・まさか」
「いつも部室よ、お金かからないし、すぐシャワー浴びられるし、男くさいの嫌いじゃないし」
ぼくは、ツバサさんがあの部室でキャプテンとしているところを想像してみた。・・・すこし大きくなってきた。

「タカギくんとも、結構したなあ」
さっきの想像のキャプテンの顔を、タカギ先輩にすげかえてみた。
またすこし、大きくなった。

「でも彼はヌイてあげるほうが多かったな。試合前、ガマンできなくなるみたいで、おーいツバサァ、ヌイてくれー、って。またぁ?しょうがないわねー、って」
それ、しょうがない、のか?

「でも、マツダに悪いから、イレなくていいよって、だからいつも手と口で。男の友情ね」
ツバサさん、それ友情とは呼ばないです。
あと「手と口で」のところに、アクションつけるのやめてください。
ぼくのアレに血液が流れこみすぎて、破裂しそうです。

「それから、ムナカタさん」
ムナカタコーチ!?

「練習のあと、わたし、いつもみんなのユニフォーム洗ってたでしょ?ある日コーチが、オレも洗ってくれって来たから、脱いでそこに置いといてください、って言ったら、バカヤロー、ユニフォームじゃない、このオレだって、まっぱだかになっちゃったの」

つまらん欲を捨てろって、言ってましたよね、コーチ。
女なんかに気を取られるなって、おっしゃってましたよね、コーチ。

「で、せっけん泡立てて洗ってあげたんだけど、アレがほんと大きいの、洗っているうちにどんどん伸びて、洗うのが追いつかないくらい、うふふ」
ツバサさん、大人のジョークまじえないでいいです。

「それから、今度はオレが洗ってやるって、脱げって、抱きつかれて泡まみれのまま、でもね、意外にスルッとはいっちゃうものね、ヒトミくん」
そんなことってあんのか・・・知らなかったのぼくだけか?

落ちこんだ。。。
「あれ、ヒトミくん、どうした?元気ないぞぉ。♪見せつけろぉ、M高魂、敵はぁ~」
歌ってくれなくていいです。フリつけもいらないです。

「もうすこしつきあってくれる?だって、今日はわたしの夢がかなった日」